在米7年目の日本人slasherに聞く「現地スラッシュ事情」


現在、拙サイト『Slash Without Tears』のベータ−・リーディングは今年で渡米7年目の留学生Ryokoさんにお願いしています(ありがとう! Ryoko様)。日本にいた時はやおい同人誌を愛読され、アメリカではslashを乱読されているという日米両方の事情に詳しいRyokoさんに、本場でのslash事情について聞いてみました。                               
聞き手:スラッシュ君

 slashとの遭遇

――そもそもRyokoさんが「slash」を知ったきっかけは何だったのでしょう?
「アメリカに行くまでは、男性同志の恋愛を書いたパロディ作品なんて、日本にしかないだろうと、思っていたんですよ。こちらに来て、たまたまその頃放映していた『スタートレック: The Next Generation』という番組がとても好きになりまして、その関係の雑誌をいろいろと漁っていくうちに、分かったんです。『slash』という<男性間の恋愛/セックスに重きを置いたパロディ>のジャンルがあるようだと……」
――「何!?」って感じですよね。「アメリカ人よお前もか……」って。
「ええ。それからは、普通の書店で売ってる『スタートレック: The Next Generation』のパロディ・アンソロジーを買っては、『slash story』を探しました。当然の事ながら全然ありませんでしたが(苦笑)」
――あることが分かっていながら買えない(笑)。それは悔しい思いをされましたね。
「結局、インターネットにアクセスできるようになるまで遭遇できなかったわけなんです。7年前はまだ、自分用のパソコンを持っていませんでしたし、『インターネット』という言葉も少なくとも私のまわりでは、普及していませんでしたね。
 その後、大学入学を機にパソコンを購入しまして、やっと遭遇できたんです。最初は、日本のやおいページなんかを探していたのですが、当時は今のように『webring』ができるほど、やおい系サイトの数が多くなかったので、かなりフラストレーションが溜まりました。そこで『slash』のことを思い出して……」
――「江戸の敵を長崎で討つ」わけですね……。
「(爆笑)まさしく、その通りです(再爆笑)。最初に行ったのが『Gossomer archive』だったんですけど、読めば読むほど『MSR』(モルダー・スカリー)ものばかりで……」
――またも立ちはだかる「壁」ですか。
「リンクをたどりにたどって、行き着いたのが『MSSS (Mulder/Skinner Slash Society)』でした」
――ついに、やっと。おめでとうございます!(拍手)
 まちがってもマンション
 なんか買えない!
 アメリカ同人誌事情

――一番多いslashの媒体としては、やはりインターネットなのでしょうか? コミケで売買されているような紙媒体の同人誌や書店で買えるような商業誌はありませんか?
「最近はやはり、自宅で・簡単に・タダで読める、インターネット作品の方が紙媒体より多いのではないでしょうか。<インターネットでは売買が基本的には発生しないため『fanzine』(同人誌)ほど著作権を気にする必要が無い>という点が大きいのではないでしょうか。日本ではよく見かける『◯◯パロディアンソロジー集』のような紙 媒体での商業作品集もないわけではありません。とはいえ、著作権や版権上の問題があるため、数は非常に少なく、ほとんどないと言っても過言ではないでしょう」
――紙媒体はどんな風に製作、流通されているのですか?
「こっちの『zine』が出るまでの過程って、日本とは結構違ってるんです。日本だと、1人もしくは複数のメンバーがお金を出しあって、自分たちで原稿の編集して、印刷屋に持っていって……って感じですよね。でも、こちらでは『zine publisher』(発行人)が『zine』ごとのテーマやジャンルを決めた上で、一般から原稿を募るんですよ。そのため作家同士がお互いの顔を見たことがないなどという場合も多いのです。私の知っているML(メーリング・リスト)が主催する『zine』は、『submit』(投稿)された原稿に書き直しを求めたり、あまりにもひどい作品の場合には『reject』(ボツ)もしてるみたいです。そして、自分の作品が載った報酬は自分の分の『zine』1冊。こんなんじゃマンションなんて買えっこないですよ(笑)。
 『zine』は、通販や『con』で購入します。『con』とは『convention』(展示会)の略で、ファンが集まる場所を指し、『con』=即売会ではありません。ファンが作ったミュージックビデオの上映会やパネルディスカッションなど、Slash fanが一緒に楽しめるような企画が並行して行われることがほとんどですし、『fanzine』を売るディーラーの数も日本に比べると少ないですね。さらに、『slash con』とか『slash-friendly con』と言われるような『con』以外では、やおいものは販売禁止ですし、業者が運営する規模の大きい『con』などでは、そのテレビ番組に出演している役者さんたちがゲストとして顔を出したりする関係上、『gen(=general:非恋愛もの)』、『het(=heterosexual:男女の恋愛もの)』、『slash』を含むすべての『fanzine』の即売が禁止だったりします。そういった意味では日本の方が、やおいに対して寛大だと思いますね」
 日本はやおい先進国?
――販売禁止ですか。ううう、かの地ではまだまだslashも日陰の身なんですね〜。
「そういった意味では、日本ってすごい<やおい大国>だと思います。アメリカでも、Kirk/Spockと言うくらいなので遅くても70年代の最初にはslashのコンセプトはあったことは確かです。しかし、キリスト教の価値観がベースのアメリカは当時、homosexualityに対してはかなり厳しく、slash本を『con』で売る時もスペースには出さずに、口づてに情報を集め、買う時は売り手のホテルの部屋(こっちの『con』は週末にホテルとかの大広間とかを利用するので、参加者もそのホテルに泊まる場合が多い)のドアの前で『ジャックがここに来いって言った』なんて合言葉を言わないと『Slash zine』を売ってもらえない……なんて有様だったようです。とはいえ時代も変わった今では、『Slash con』や『slash-friendly con』に行けば普通に買えますけどね」
――『con』への一般的な行き方を教えてください。
「まず場所と日程をインターネットで調べて、企画側に小切手などで入場費を送ります。ただ、ほとんどの『Slash con』は日本の即売会の規模とは比べ物にならないくらい小さい(入場者も多くて300人くらい)ので、前払いや参加登録を予めしておかないと、ディーラーはもちろん一般参加者ですら入れない場合があります。大抵、ホテルの大広間をlong weekend期間などに3日ほど貸切って行われる場合がほとんどです。もし『con』の会場が自分の住んでいる場所から近いのであれば問題はありませんが、遠い場合は会場のホテルや近くのモーテルなどの予約もしておいた方が無難でしょう」
――有名『con』にどんなものがありますか?
「コミケなんかと比べればもちろんケタ違いに小さいですが、Slash ML(メーリング・リスト)などでよく聞く『con』といったら、一番歴史が長いのが『Escapade』(http://trickster.org/escapade/)ですね。後は毎年コロラドで行われる『Media West』とか、サンフランシスコの『Friscon』なんかも有名です」
――実際に『con』で同人誌を買ってみましたか?
「いえ、私の場合は通販でした」
――それって日本人も買えますか? 支払いなどはどうするんでしょう?
「買えると思います。でも、詳しいことは『zine publisher』のページなどをちゃんと読んだほうがいいですね。私は小切手を送って払いましたが、クレジットカードが使えるところも多いですよ。私が今まで買った『slash zine』は『シャーロックホームズ』と『Quantum Leap』(QL)(テレビシリーズ)と映画『TheFugitive』(逃亡者)なんですが、一冊大体100〜200ページくらいで値段は10ドル強くらいだったのではないかと思います。『Slash on The Net』ページには『fanzine publisher』のURLもあると思うので、詳しいことはそちらをご覧になってください」
――買ってみてどうでしたか?
「『The Fugitive』は『novel』で、『Holmes』と『QL』は何人かのwriterさんが寄稿してるものを数冊持っているんですが、それぞれに長所と短所があると思います。『novel』は一人のwriterが書いているので、自分の好きな雰囲気の話だったりすればそれを深く読めるんですが、ハズレだったらもう読むものがないところが短所です(爆笑)。普通の『zine』の場合、何人かが寄稿する形態がメインですが、色々な作品が読めて面白いし、必ずその中に自分の好きな作品は一つや二つは見つかります。短所は自分のテイストに合わないものも必ず入ってることですね。というわけで『zine』を通販で買うのは、一種のギャンブルなんです」
 個人が楽しむ分には問題ない −
 自己責任が問われる国、アメリカでは
 「disclaimer」は重要

    
――インターネットは売買が発生しないので著作権の問題になりにくいそうですが、著作権に人一倍うるさいアメリカで問題にならないのは意外です。 イギリスの子ども番組「テレタビーズ」などでは、ファンサイトが一斉に画像掲示を禁止させられたと聞いているのですが。
「基本的に著作権というのは、商業目的でなく、個人で楽しむ分には問題がないはずです。『disclaimer』(注意書き)さえしっかり付けていれば、タダで読めるネット作品は著作権には抵触しないのではないでしょうか。一時、『スタートレックのファンサイトは全て強制閉鎖される』という噂が立ったりして、ピリピリしていた時期もありました。ですが、これは『全てのサイト』という点に反感があっただけであって、『disclaimer』も添付していないようなファンサイトは閉鎖されて当り前、という意識は今や『Fanfic writer』の間にも浸透していますね」
――子どもの教育上良くない、社会的・宗教的に許しがたいなどという攻撃・非難の声や運動について聞いたことはありませんか? 作者や役者さんからの「やおいものなんかに使わないでくれ」といった名誉毀損的な反対意見とか。
「でも、大体『Slash site』って子供用の『Net censor』が付いてたり、『18歳以下の人と、男性間の恋愛およびセックス描写に抵抗を持たれる方はこのページに入らないでください』って書いてあるじゃないですか(爆笑)。それを読まないでブルーになられても、ねぇ(苦笑)。それならもっと子供が安心してコンピュータで遊べるような環境(インターネット用パソコンにはパスワードをかけておき、できるのはゲームソフトに絞っておくとか)を自分が作らなくてはいけないのに、それすらしないで供給側にばかり文句を言うのってちょっと違うと思うんですよ。目の前に並ぶ情報を自分で選択する力って大事だと思います。アーカイブ・サイトのオーナーが抱える一番の悩みは、そこに収録された話に対して苦情を言われることなんだそうですけど、その苦情の大半は『fic』の冒頭についてる注意書きさえ読んでいれば防げることなんです。それも読まずに『こんな話……』などと言うなんて非常識だと思うのは、私だけでしょうか?」
――私もそう思います。コンファランスではどうなんでしょう? コミケには相当若いコも来てますけど。
「う〜ん、でも子供が来るような『Con』は大体、業者主催の場合が多いですから『fanzine』とかはまったく売ってないこともありますし、『Slash con』でも参加受付の際に年齢制限があったり、『statement』(誓約書)を書かせたしりしますから。私が行った『Slash con』では子供が全然いませんでしたねえ。それにしても、『slash fandom』界って日本の同人界に比べて若いコが少ないんですよ。これって一体、何なんでしょう? 映画『ベルベット・ゴールドマイン』にしても、若いコが全然いなくて、オバサンばっかりだったし(爆笑)」
――まあ、日本はその辺が鷹揚ですからねえ。フジミの作者なんか後書きで、「小学6年生からファンレターが来た」と苦笑していましたよ。そんな日本で「特定の同人誌は子どもの教育上良くない、原作のイメージを傷つける」なんて目くじら立てるのは、屁理屈以外の何ものでもない気がします。
 特定の俳優名さえ使わなければ
 名誉毀損には当たらない
「ドラマでキャラクターを演じている俳優のほうがslashに渋い顔をする、という話は聞いたことがあります。とはいえ、『TPTB』(=The Power That Be。プロデューサー、ディレクター、脚本家など、ドラマの制作に関わるスタッフの総称のこと)が特に表立って抗議するという話は聞いたことがないですね。でも、『disclaimer』を付けて、なおかつ、実在の俳優の名前を使ったりしなければ名誉毀損にはならないと思うんですよ。例えば『モルクラslash』なら、あくまでも『Mulder』と『Krychek』という架空の人物だからOKだけど、これが『David Duchoveny』と『Nick Lea』という名前を使ったら名誉毀損に引っかかるんじゃないでしょうか? そのせいか、ほとんどのslash MLは『actor fic』禁止なんです。作者が個人である場合が多いマンガや、それを原作にしたアニメが主流の日本とは違って、アメリカでは脚本家が数人いる場合が多いドラマのパロディが主流だ、ということも関係しているのかもしれません」
 男性作家もいるアメリカで
 slash批判をするのは
 男性よりもむしろ女性
「ところでslashに対する批判は男性からよりも、『shipper』(Relationshipperの略。ドラマ中の2人の男女キャラを恋愛関係にしたがる人々のこと)の女性からのほうが多いです。『slash vs het』の論争も基本的に日本と変わらず、『なぜ◯◯と××がゲイになるのか分からない!』みたいな発言がきっかけになることが多いかもしれませんね。逆に日本のやおい系サイトでは、<男性お断り>風の注意書きが多く見られますよね」
――女性専用MLとか日本では結構多いですしね。あっちでは差別とか言われてしまうかもしれないですね(汗)。
「そうですね、こちらには男性slash writerも結構いますからね」
 ここが違う!
 日本のやおいとアメリカのslash
――slashを読んでみて、日本のやおい物と、どう違うと思いましたか?
「やはり最大の違いは、漫画が少ない!! ことでしょう。こちらの『Slashfandom』って小説が90%で詩とイラストが5%ずつくらいなんですよ。イラストも日本みたいにかわいいマンガっぽいのじゃなくて、妙にリアル。しかもそんな顔してるのに妙にファンタジー系の構図だったりするからまた可笑しい。
 私はすでに『やおい』よりもslashに慣れてしまったので特にこちらの『fandom』に不満はないのですが、漫画の少なさは時々無精に腹が立つこともありますね。著作権があるので、商業誌なんか*もちろん*ないですし」
――パロディものばかりでオリジナルものはないんでしょうか?
「オリジナルはslashには入らないんじゃないでしょうか(笑)? でも個人の、アーカイブじゃないホームページに行くと、たまにオリジナルの『m/mstory』に当たることがありますね。
 小説全体に言えることですが、日本のものにくらべると、特定描写にリアリティがある点が特徴です。例えば、胸毛などの細かい描写や、挿入する前にコンドームや『lube』をつけたりするシーンも具体的に書かれている場合が多いです。STD予防とかでコンドームをつけるべきだと主張しているのではなく、単に、話にリアリティを加える一種のスパイスとして書かれているようです。私自身、slashを読んだばかりの頃は、攻×受がはっきりとしない点や、受け(と少なくとも自分だけは思っている)キャラなのに体毛描写がされている点などににかなりまごつきましたが、今となっては慣れっこになってます(笑)。もっともビジュアル面でいえば日本のほうが漫画が多い点で、過激かもしれませんけど。あとはキャラクターの年齢層が高い点ですね。たぶんこれは日本のやおいの主流がキャラの年齢層にティーンエージャーが多いアニパロなのに対して、slashはキャラの年齢層が30代前後のテレビドラマのパロディが多いという事情が関係しているのかもしれません。
 日本にいた時からオヤジ好きだった私は、どちらかというとティーンエージャーの男の子キャラがほとんどのやおい同人界よりも、30代以上のおっさんがメジャーなこちらの『Slash fandom』の方に、なじんでしまっていますが(苦笑)」
――やはり歴史が一番長いのはスター・トレックで、作品が多いのはXファイルでしょうか?
「歴史が長いのは、やはりスタートレックシリーズですね。作品が多いのもやはり、ネット、zineで発表されたものを合わせれば、まだまだスタートレックシリーズが一番だと思います。ほかには『Highlander(HL)』(映画版もある不老不死の剣士もの)、『The Sentinel(TS またはSEN)』(超能力刑事モノのテレビシリーズ)なんかが多いですね」
――Ryokoさんのオススメslashを教えてください。特に短編を……。
「オススメslash短編ですか……。『Xファイル』(XF)ならWombatの『Muldertorture』とか『Drawing The Line』なんかが面白かったですね。基本的に彼女の『fic』はどれも面白いです。あとはGwynethの『Surrender Dorothy』。こっちのslashにしては珍しく、切ない話で良かったです。それから、短編ではないのですが『XF slash fanfic』界の中でたぶん1、2を争うのがEthan Nelson(注:Ethanは男性という説もあったが、最近のインタビューで『自分は女』と明言していたことが判明。この辺は村野犬彦氏をはじめとする日本のやおい漫画家と似ているかもしれない……)が書いた『Cyanide and Astroglide』でしょう。メールアドレスも分からず、11本のficを書いたきり一時消息不明になってしまった彼女は一種『XF slashの伝説と言ってもいいと思います。実際『Cyanide & Astroglide』を始め、いくつかの彼女の作品は『Whammy Award』(ファン投票により『XF slash storyに与えられる賞)も受賞しています。個人的に言って、この人の作品を越える『XF story』をまだ読んだことがありません。
ちなみに、Wombatの作品は
http://dialspace.dial.pipex.com/town/drive/xsi35/fanfic1.shtml
Ethan Nelsonの作品は
http://slash.simplenet.com/msss/
で見つけることができます」
――今まで読んだ中のずばり、ベスト3は何でした?
「私のベスト3は
Ethan Nelsonの『Cyanide and Astroglide』 (X-Files: Mulder/Skinner)
Gemma Filesの『My Wife and My Dead Wife』(Oz:Beecher/Keller/Schillinger)
Jane Simmonsの『Mr. Kowalski's Feeling For Snow』(Due South:Fraser/Kowalski)
です」
――「Due South」(DS)というのはどんな話なんですか? テレビドラマですか?
「カナダで制作されたテレビドラマで、一種カルト的な人気を持った番組でした。カナダの超生真面目な『Mountie』(カナダ騎馬警察『Royal CanadianMountedPolice』の警官のことをこう呼ぶ)がシカゴで相棒になった刑事と組んで事件を解決していく、というコメディ/ドラマだったんですが、私はこれに無茶苦茶ハマりまして、『Manipulated pic』を作ったり、トロントまで『con』に行ったりしてました。HPも持っていたんですが、今のところ何の更新もしてませんけど」
 日本にもブームが来るか?
 今一番slashyなドラマ『Oz』
――Ryokoさんが最近オススメのジャンルはありますか?
「それはもう、『Oz』ですね! 今私が泥沼状態(ビデオを1日に1回は見ないと機嫌が悪くなる&日本のslash仲間にビデオを送り付ける、etc...)にハマっているドラマなんです」
――『Oz』ですか。日本ではなじみがない番組ですが、どんな内容なんですか?
「ケーブルテレビ局が制作している刑務所ドラマです。酔っ払い運転で少女を跳ね殺してしまったアル中の企業弁護士Beecher(ビーチャー)がOzと呼ばれる凶悪犯専用の州刑務所に入れられてしまうところから話は始まります。BeecherはそこでVern Schillinger(バーン・シリンガー)という『Aryan Brotherhood』(白人至上主義グループ)のリーダーに『prag』(性的奴隷)にされてしまいます。『upper-middle class』で育ち、他の囚人のように自分を守る術を知らないBeecherは屈辱的な日々を送り続けるんですが、ついにキレてSchillingerの目を潰したのをきっかけに、顔に排便したり、仮釈放を取り下げさせたりして、とうとう天敵同志になります(もうこの時点で、『angst』(愛憎)度ブっちぎりに高いです)。
 その後、仮釈放のチャンスをBeecherによって取り消されたSchillingerは、Beecherに長期的な復讐をしかけます。それは、新しくOzに収容されてきた元自分の『prag』だった男Chris Keller(クリス・ケラー)にBeecherを誘惑させ、完全にKellerを信用しきった時点で肉体的/精神的なダメージを与えるというもので、その作戦は不幸にも大成功して、好きになった男と殺したいくらい憎い男の両方(と看守1人)に、Beecherは両手両足を折られてしまいます(そして、ますます『angst』度が上がっていく……)。
 だけど、そこで予想してなかったのはKellerが本当にBeecherに対して愛情を抱いてしまったことで(!)(ここら辺、『angst』度ピークです)、骨折からようやく治癒したBeecherに謝ろうとしますが、改めて復讐に燃えるBeecherはKellerをナイフで刺したり、Ozに収容されたSchillingerの子供を、策略によって間接的に殺したり(!!)します。
 しかし、自分の骨折とは直接無関係なAndy Schillingerを殺したことに良心の呵責を感じたBeecherはSchillingerに謝ろうとしますが、結局BeecherはSchillingerに刺され、Schillinger自身もBeecherをかばったKellerに刺されてします。
 それからしばらくして退院したBeecherと独房に入れられていたKellerは、またルームメイトに戻り、2000年の幕開けに口づけを交す……。
 というのが、今までの『B/K/S story line』です」
――それ、実際のドラマのストーリーなんですか? slashじゃなく? とんでもない話ですね……。
「他にも『Oz』には、いろんな『story line』が含まれているので、『B/K』ばっかりじゃないんですけど、Beecherとkellerのキスシーンがあるんですよ。2回。バッチシと。『Oz』の新シーズンは来年の7月からなんですが、1シーズンに8エピソードしか作られないために、私すでに禁断症状きてます(苦笑)。今、対訳サイトを製作中ですが、『Oz』は他の『fandom』に比べて『swear word』(汚い言葉)が多い点がやっかいですね」
――本当ですか? (キスシーン画像のURLを教えてもらいクラクラしながら)すっごい楽しみです。是非、リンク貼らせてください!! この分野の生きた英語教材(しかも楽しい)は日本にはあまり無いですから。首を長くしてお待ちしています。評判になれば日本のCSでも放送されるかもしれませんよ〜。リクエストを重視しているそうだし。
「そのためには、日本の皆さんがリクエストしてくれないと(爆笑)。
『Oz』slashの中からいくつかお勧めします。
http://sugaree.simplenet.com/
にある『Oz』ML、『Emcityの『Fanfic archive』は、私が今までに覗いた色々なジャンルの『Fanfiction archive』の中でたぶん一番クオリティが高い『fanfic』が揃っていると思います。私のお勧めはGemma Fileの『My Wife and My Dead Wife』シリーズと 『Samaritan』、Alexaの『Covenant』シリーズ、Shugの『Thou Shalt Not』です。基本的なキャラクター設定やドラマのあらすじは『Emcity』サイトや、『Oz official HP』、
http://www.hbo.com/oz/
で見つかりますが、どれも長めなのでお暇があった際にでも、もしよかったらどうぞ」
(Ryokoさんのサイトではこの「Oz」のエピソードガイドがアップされています)
――Ryokoさんはご自分でslashを書かれたりはしないのですか?
「『Dead Man on Campus』という映画を元に『Short story』を書いたりしたことがあります。1998年製作の映画ですが、最初はMTVが制作ということもあって、『また、くだらないティーンエージャー映画だろう』とタカをくくってレンタルに出ても手に取ろうともしなかったんですが、ある日あまりにもヒマだったんで借りてみたら、いやー、これがslashyでした(爆笑) 。2人の落ちこぼれ大学生が、自分たちの大学に『寮のルームメイトが不慮の事故などで死亡した場合、その学期は同室だった生徒の心の負担を考慮して不問でオールAにする』っていう校則があるのを知って、もっとも自殺しそうな生徒を自分たちのルームメイトにするために探す、っていうコメディなんですけどね」
――Ryokoさんはふだん、どうやって面白いslash作品を見つけているんですか?
「私は自分の好きな『fandom』の好きなカップリングの話はかたっぱしから読んでいく方なんです。ただ、『Slashfic』MLにも複数入っているので、そこにポストされる『fic』を読んで、自分の好みの話を書く作家を見つけることもあります。レビューは自分が既に読んだ作品のしか読みません。それで自分が好きな『fanfic』のレビューが良かったりすると、『ほら、やっぱりそうだろう』と自己満足に浸りますね」
 つまらない授業より
 英語苦手意識の克服には
 楽しいslashを!
――最後にslash英語をものにするコツをRyokoさんにお伺いしたいのですが。
「1番いいのは、やはり『アメリカンやおい/Slash Without Tears』ページに載っている対訳を読む(爆笑)。2番目にいい方法は、やはり自分で時間をかけて読むことです。私は特に学校での英語の成績も取り立てて良かった訳でもなく、米国で生活するなんて考えてもみなかったので、特に英語を勉強した訳じゃないんですが、そんな私が今、辞書を使わずにほぼ100%原文で『fanfic』が読めるのは、ひとえに私が下心のかたまりだったお陰だと思います。好きなキャラクター同士がエッチをしてる話をどうしても読みたかったからこそ、普段引かない辞書も喜んでひいたし、一日に1メガ(!)単位の文章も漁るように読んでました。たとえ、全ての分からない単語に辞書を引かなくても、ある程度読んでいくと話の輪郭はつかめるようになります。教科書を読むのは苦痛でもやおい小説を読むのが楽しい。これって当り前ですよね。『勉強するぞ!』と構えずに、まずは楽しむこと。中学校3年程度の英語力と、いい辞書2冊(英和辞書+スラング辞書)、後は『飽くなきslashへの欲求』があれば、1つアーカイブを読み潰すころには、辞書なしでスラスラと読めるようになるハズです」
――好きなら自然と読めるようになるから、どんどん読めっていうことですね。日本人はTOEFLの成績が165か国中150位で、アジアで日本に負けているのはモンゴルくらい、北朝鮮にも負けていると朝日新聞の船橋洋一氏に指摘されていますが、あと少したつと「日本女性は例外的にできる。それも特定の分野だけ」っていうことになるかもしれませんねえ(苦笑)。今日は、どうもありがとうございました。これからもベータ−・リーディングでご足労をお掛けしますが、よろしくお願いいたします。

このインタビューは1999年10月27日から11月19日までのe-mailによって構成しました。


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