――販売禁止ですか。ううう、かの地ではまだまだslashも日陰の身なんですね〜。 |
「そういった意味では、日本ってすごい<やおい大国>だと思います。アメリカでも、Kirk/Spockと言うくらいなので遅くても70年代の最初にはslashのコンセプトはあったことは確かです。しかし、キリスト教の価値観がベースのアメリカは当時、homosexualityに対してはかなり厳しく、slash本を『con』で売る時もスペースには出さずに、口づてに情報を集め、買う時は売り手のホテルの部屋(こっちの『con』は週末にホテルとかの大広間とかを利用するので、参加者もそのホテルに泊まる場合が多い)のドアの前で『ジャックがここに来いって言った』なんて合言葉を言わないと『Slash zine』を売ってもらえない……なんて有様だったようです。とはいえ時代も変わった今では、『Slash con』や『slash-friendly con』に行けば普通に買えますけどね」 |
――『con』への一般的な行き方を教えてください。 |
「まず場所と日程をインターネットで調べて、企画側に小切手などで入場費を送ります。ただ、ほとんどの『Slash con』は日本の即売会の規模とは比べ物にならないくらい小さい(入場者も多くて300人くらい)ので、前払いや参加登録を予めしておかないと、ディーラーはもちろん一般参加者ですら入れない場合があります。大抵、ホテルの大広間をlong weekend期間などに3日ほど貸切って行われる場合がほとんどです。もし『con』の会場が自分の住んでいる場所から近いのであれば問題はありませんが、遠い場合は会場のホテルや近くのモーテルなどの予約もしておいた方が無難でしょう」 |
――有名『con』にどんなものがありますか? |
「コミケなんかと比べればもちろんケタ違いに小さいですが、Slash ML(メーリング・リスト)などでよく聞く『con』といったら、一番歴史が長いのが『Escapade』(http://trickster.org/escapade/)ですね。後は毎年コロラドで行われる『Media West』とか、サンフランシスコの『Friscon』なんかも有名です」 |
――実際に『con』で同人誌を買ってみましたか? |
「いえ、私の場合は通販でした」 |
――それって日本人も買えますか? 支払いなどはどうするんでしょう? |
「買えると思います。でも、詳しいことは『zine publisher』のページなどをちゃんと読んだほうがいいですね。私は小切手を送って払いましたが、クレジットカードが使えるところも多いですよ。私が今まで買った『slash zine』は『シャーロックホームズ』と『Quantum Leap』(QL)(テレビシリーズ)と映画『TheFugitive』(逃亡者)なんですが、一冊大体100〜200ページくらいで値段は10ドル強くらいだったのではないかと思います。『Slash on The Net』ページには『fanzine publisher』のURLもあると思うので、詳しいことはそちらをご覧になってください」 |
――買ってみてどうでしたか? |
「『The Fugitive』は『novel』で、『Holmes』と『QL』は何人かのwriterさんが寄稿してるものを数冊持っているんですが、それぞれに長所と短所があると思います。『novel』は一人のwriterが書いているので、自分の好きな雰囲気の話だったりすればそれを深く読めるんですが、ハズレだったらもう読むものがないところが短所です(爆笑)。普通の『zine』の場合、何人かが寄稿する形態がメインですが、色々な作品が読めて面白いし、必ずその中に自分の好きな作品は一つや二つは見つかります。短所は自分のテイストに合わないものも必ず入ってることですね。というわけで『zine』を通販で買うのは、一種のギャンブルなんです」 |
――slashを読んでみて、日本のやおい物と、どう違うと思いましたか? |
「やはり最大の違いは、漫画が少ない!! ことでしょう。こちらの『Slashfandom』って小説が90%で詩とイラストが5%ずつくらいなんですよ。イラストも日本みたいにかわいいマンガっぽいのじゃなくて、妙にリアル。しかもそんな顔してるのに妙にファンタジー系の構図だったりするからまた可笑しい。
私はすでに『やおい』よりもslashに慣れてしまったので特にこちらの『fandom』に不満はないのですが、漫画の少なさは時々無精に腹が立つこともありますね。著作権があるので、商業誌なんか*もちろん*ないですし」 |
――パロディものばかりでオリジナルものはないんでしょうか? |
「オリジナルはslashには入らないんじゃないでしょうか(笑)? でも個人の、アーカイブじゃないホームページに行くと、たまにオリジナルの『m/mstory』に当たることがありますね。
小説全体に言えることですが、日本のものにくらべると、特定描写にリアリティがある点が特徴です。例えば、胸毛などの細かい描写や、挿入する前にコンドームや『lube』をつけたりするシーンも具体的に書かれている場合が多いです。STD予防とかでコンドームをつけるべきだと主張しているのではなく、単に、話にリアリティを加える一種のスパイスとして書かれているようです。私自身、slashを読んだばかりの頃は、攻×受がはっきりとしない点や、受け(と少なくとも自分だけは思っている)キャラなのに体毛描写がされている点などににかなりまごつきましたが、今となっては慣れっこになってます(笑)。もっともビジュアル面でいえば日本のほうが漫画が多い点で、過激かもしれませんけど。あとはキャラクターの年齢層が高い点ですね。たぶんこれは日本のやおいの主流がキャラの年齢層にティーンエージャーが多いアニパロなのに対して、slashはキャラの年齢層が30代前後のテレビドラマのパロディが多いという事情が関係しているのかもしれません。
日本にいた時からオヤジ好きだった私は、どちらかというとティーンエージャーの男の子キャラがほとんどのやおい同人界よりも、30代以上のおっさんがメジャーなこちらの『Slash fandom』の方に、なじんでしまっていますが(苦笑)」 |
――やはり歴史が一番長いのはスター・トレックで、作品が多いのはXファイルでしょうか? |
「歴史が長いのは、やはりスタートレックシリーズですね。作品が多いのもやはり、ネット、zineで発表されたものを合わせれば、まだまだスタートレックシリーズが一番だと思います。ほかには『Highlander(HL)』(映画版もある不老不死の剣士もの)、『The Sentinel(TS またはSEN)』(超能力刑事モノのテレビシリーズ)なんかが多いですね」 |
――Ryokoさんのオススメslashを教えてください。特に短編を……。 |
「オススメslash短編ですか……。『Xファイル』(XF)ならWombatの『Muldertorture』とか『Drawing The Line』なんかが面白かったですね。基本的に彼女の『fic』はどれも面白いです。あとはGwynethの『Surrender Dorothy』。こっちのslashにしては珍しく、切ない話で良かったです。それから、短編ではないのですが『XF slash fanfic』界の中でたぶん1、2を争うのがEthan Nelson(注:Ethanは男性という説もあったが、最近のインタビューで『自分は女』と明言していたことが判明。この辺は村野犬彦氏をはじめとする日本のやおい漫画家と似ているかもしれない……)が書いた『Cyanide and Astroglide』でしょう。メールアドレスも分からず、11本のficを書いたきり一時消息不明になってしまった彼女は一種『XF slashの伝説と言ってもいいと思います。実際『Cyanide & Astroglide』を始め、いくつかの彼女の作品は『Whammy Award』(ファン投票により『XF slash storyに与えられる賞)も受賞しています。個人的に言って、この人の作品を越える『XF story』をまだ読んだことがありません。
ちなみに、Wombatの作品は
http://dialspace.dial.pipex.com/town/drive/xsi35/fanfic1.shtml
Ethan Nelsonの作品は
http://slash.simplenet.com/msss/
で見つけることができます」 |
――今まで読んだ中のずばり、ベスト3は何でした? |
「私のベスト3は
Ethan Nelsonの『Cyanide and Astroglide』 (X-Files: Mulder/Skinner)
Gemma Filesの『My Wife and My Dead Wife』(Oz:Beecher/Keller/Schillinger)
Jane Simmonsの『Mr. Kowalski's Feeling For Snow』(Due South:Fraser/Kowalski)
です」 |
――「Due South」(DS)というのはどんな話なんですか? テレビドラマですか? |
「カナダで制作されたテレビドラマで、一種カルト的な人気を持った番組でした。カナダの超生真面目な『Mountie』(カナダ騎馬警察『Royal CanadianMountedPolice』の警官のことをこう呼ぶ)がシカゴで相棒になった刑事と組んで事件を解決していく、というコメディ/ドラマだったんですが、私はこれに無茶苦茶ハマりまして、『Manipulated pic』を作ったり、トロントまで『con』に行ったりしてました。HPも持っていたんですが、今のところ何の更新もしてませんけど」 |
――Ryokoさんが最近オススメのジャンルはありますか? |
「それはもう、『Oz』ですね! 今私が泥沼状態(ビデオを1日に1回は見ないと機嫌が悪くなる&日本のslash仲間にビデオを送り付ける、etc...)にハマっているドラマなんです」 |
――『Oz』ですか。日本ではなじみがない番組ですが、どんな内容なんですか? |
「ケーブルテレビ局が制作している刑務所ドラマです。酔っ払い運転で少女を跳ね殺してしまったアル中の企業弁護士Beecher(ビーチャー)がOzと呼ばれる凶悪犯専用の州刑務所に入れられてしまうところから話は始まります。BeecherはそこでVern Schillinger(バーン・シリンガー)という『Aryan Brotherhood』(白人至上主義グループ)のリーダーに『prag』(性的奴隷)にされてしまいます。『upper-middle class』で育ち、他の囚人のように自分を守る術を知らないBeecherは屈辱的な日々を送り続けるんですが、ついにキレてSchillingerの目を潰したのをきっかけに、顔に排便したり、仮釈放を取り下げさせたりして、とうとう天敵同志になります(もうこの時点で、『angst』(愛憎)度ブっちぎりに高いです)。
その後、仮釈放のチャンスをBeecherによって取り消されたSchillingerは、Beecherに長期的な復讐をしかけます。それは、新しくOzに収容されてきた元自分の『prag』だった男Chris Keller(クリス・ケラー)にBeecherを誘惑させ、完全にKellerを信用しきった時点で肉体的/精神的なダメージを与えるというもので、その作戦は不幸にも大成功して、好きになった男と殺したいくらい憎い男の両方(と看守1人)に、Beecherは両手両足を折られてしまいます(そして、ますます『angst』度が上がっていく……)。
だけど、そこで予想してなかったのはKellerが本当にBeecherに対して愛情を抱いてしまったことで(!)(ここら辺、『angst』度ピークです)、骨折からようやく治癒したBeecherに謝ろうとしますが、改めて復讐に燃えるBeecherはKellerをナイフで刺したり、Ozに収容されたSchillingerの子供を、策略によって間接的に殺したり(!!)します。
しかし、自分の骨折とは直接無関係なAndy Schillingerを殺したことに良心の呵責を感じたBeecherはSchillingerに謝ろうとしますが、結局BeecherはSchillingerに刺され、Schillinger自身もBeecherをかばったKellerに刺されてします。
それからしばらくして退院したBeecherと独房に入れられていたKellerは、またルームメイトに戻り、2000年の幕開けに口づけを交す……。
というのが、今までの『B/K/S story line』です」 |
――それ、実際のドラマのストーリーなんですか? slashじゃなく? とんでもない話ですね……。 |
「他にも『Oz』には、いろんな『story line』が含まれているので、『B/K』ばっかりじゃないんですけど、Beecherとkellerのキスシーンがあるんですよ。2回。バッチシと。『Oz』の新シーズンは来年の7月からなんですが、1シーズンに8エピソードしか作られないために、私すでに禁断症状きてます(苦笑)。今、対訳サイトを製作中ですが、『Oz』は他の『fandom』に比べて『swear word』(汚い言葉)が多い点がやっかいですね」 |
――本当ですか? (キスシーン画像のURLを教えてもらいクラクラしながら)すっごい楽しみです。是非、リンク貼らせてください!! この分野の生きた英語教材(しかも楽しい)は日本にはあまり無いですから。首を長くしてお待ちしています。評判になれば日本のCSでも放送されるかもしれませんよ〜。リクエストを重視しているそうだし。 |
「そのためには、日本の皆さんがリクエストしてくれないと(爆笑)。
『Oz』slashの中からいくつかお勧めします。
http://sugaree.simplenet.com/
にある『Oz』ML、『Emcityの『Fanfic archive』は、私が今までに覗いた色々なジャンルの『Fanfiction archive』の中でたぶん一番クオリティが高い『fanfic』が揃っていると思います。私のお勧めはGemma Fileの『My Wife and My Dead Wife』シリーズと 『Samaritan』、Alexaの『Covenant』シリーズ、Shugの『Thou Shalt Not』です。基本的なキャラクター設定やドラマのあらすじは『Emcity』サイトや、『Oz official HP』、
http://www.hbo.com/oz/
で見つかりますが、どれも長めなのでお暇があった際にでも、もしよかったらどうぞ」 (Ryokoさんのサイトではこの「Oz」のエピソードガイドがアップされています)
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――Ryokoさんはご自分でslashを書かれたりはしないのですか? |
「『Dead Man on Campus』という映画を元に『Short story』を書いたりしたことがあります。1998年製作の映画ですが、最初はMTVが制作ということもあって、『また、くだらないティーンエージャー映画だろう』とタカをくくってレンタルに出ても手に取ろうともしなかったんですが、ある日あまりにもヒマだったんで借りてみたら、いやー、これがslashyでした(爆笑) 。2人の落ちこぼれ大学生が、自分たちの大学に『寮のルームメイトが不慮の事故などで死亡した場合、その学期は同室だった生徒の心の負担を考慮して不問でオールAにする』っていう校則があるのを知って、もっとも自殺しそうな生徒を自分たちのルームメイトにするために探す、っていうコメディなんですけどね」 |
――Ryokoさんはふだん、どうやって面白いslash作品を見つけているんですか? |
「私は自分の好きな『fandom』の好きなカップリングの話はかたっぱしから読んでいく方なんです。ただ、『Slashfic』MLにも複数入っているので、そこにポストされる『fic』を読んで、自分の好みの話を書く作家を見つけることもあります。レビューは自分が既に読んだ作品のしか読みません。それで自分が好きな『fanfic』のレビューが良かったりすると、『ほら、やっぱりそうだろう』と自己満足に浸りますね」 |